屋根裏やQueに行ったことはない。本多劇場にもスズナリにも。開かずの踏切がなくなった頃、私は北陸で遠い春を待ちわびていた。帰宅後、なにげなくタイムラインを遡ると、向井秀徳が南口のシャッター前で、ゲリラライブを行っているという。繰り返される諸行無常。テレビ東京の連続ドラマでは、見慣れた景色を背景に柄本明が自転車を漕いでいた。流れるのは、雨のパレードの『Shoes』。毎週、radikoで聴いているラジオ番組。岡村靖幸とBase Ball Bear小出祐介が、トリプルファイヤー吉田靖直と「今度、下北の王将で飲みましょう」と約束していた。もうすぐ公開される映画『リバーズ・エッジ』の主題歌を小沢健二が書き下ろしたという。その曲には珉亭とシェルターが歌われている。
私が下北沢に通うようになって、2年半が経とうというのに、私と下北沢との距離はあの頃と大して変わらない。制服のまま、新星堂のフリーペーパー『pause』を読み耽っていたあの頃と。私のいない下北沢は、魔法がかかっている。画面越しに眺めては、うらやましそうに頬杖をつく。
これは、私のクセなのだ。根無し草を続けてきたからか、いつもどこか傍観者でいようとしてしまう。バランスを取っているつもりが、肝心なものを見落としている。駅前で弾き語るシンガーソングライター。声を枯らして呼び込みを続ける芸人。下北沢の街にふさわしいのは、圧倒的に当事者だ。
目立たぬように、ただ対象に光を当てるように、執筆活動を続けてきた。それ自体には誇りを持っているし、これからもそうでありたいと思う。ただ、それだけでは乗り越えられない壁があることにも気づきはじめている。
今年はもう少し、踏み込んでみようと思う。一歩、前へ。
(※敬称略)
他のメンバーを見る