プレスラボ

2020
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鈴木 一禾

鈴木 一禾

この10年を振り返ってみる。私にとっての大きな変化といえば、お酒に強くなったことだ。ビールを舐める程度で酔っ払い、頭痛や寒気に見舞われてしまうという面倒な体質だったが、今ではグラスに半分程度ならそれほど酩酊しなくなった。

この10年でもっとも大きな出来事といえば、月並みながら、大切な人との別れだろうと思う。そして身に沁みて思い知ったのが、やはり月並みながら、言葉で思いを伝えることの難しさだ。結局わたしは最後まで、大切な人に自分の気持ちを何ひとつ正確に伝えることはできなかった。聞きたいことの半分も聞けなかった、という思いもある。「言葉にしなくてもきっと心は通じているはず」。そんな思い込みがあったし、そう願ってもいた。今はただ、祈るしかない。

多くの時間や経験を共有していたり、共通項が多かったりすると、言葉の扱いは思いのほかなおざりになるものだ。なんとなく「伝わってるはず」と期待してしまいがちだが、それは甘えや怠惰であって、いよいよ罪深い。「あれとこれだけは、いや、できればあれについても話しておきたかった」と後悔の念が拭えず夢にも見るが、どれだけ悔やんでも、もう遅いのだ。

肉親でさえこのありさまだから、他人となればなおさら。ネット上の情報を介した関係ならいわずもがなといったところだ。ちょっとした誤解が命取りになる。説明不足で誰かが傷つく。

大切な人を亡くしたのちに、上京。知り合いと呼べる人がほとんどいないなか、年齢や素性、生い立ちなどがまるで違う人々に立ち交じり、言葉で繋がろうとすることの危うさを痛切に感じている。

人の気持ちをいかに害ってきたかと自戒し、相手の考えをうまく汲み取れずに歯がゆい思いを重ねる日々だが、美妙なる天の配剤か、必要な言葉を必要としている人の元へ届けるプロ集団であるプレスラボとのご縁をいただけた。

さて、この先の10年で、どれだけお酒に強くなるのか、楽しみでならない。

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撮影協力:齋藤 大輔
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