プレスラボ

2020
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山本 莉会

山本 莉会

先日、永井荷風の文学講座に参加した。とても興味深く話を聞いていたのだけど、講師は普段大学で若い学生に教えられている方だけあって、荷風の特徴の説明に「インスタ」や「SNS映え」などの言葉を使われていた。参加者のほとんどは70代前後の高めの年齢層で、途中で眠り始めてしまった方が何名かいた。外との温度差でそうなったのかもしれないし、寝不足だったのかもしれない。私は授業で眠るのは学生だけじゃないんだなと当たり前のことを知りほっとすると同時に、ひょっとして眠ってしまった理由が知らない言葉にあるのだとしたら、70代になったとき私は起きている側にいるのか、それとも寝ている側にいるのか、ふと考えてしまった。

2010年代のはじまりは、ガラケーからスマホへ、時代が変わりつつあるときだった気がする。当時Web系の広告代理店に勤めていた私は、ガラケーとスマホとウィルコムの三台を持ち歩いていた。FacebookもTwitterも、仕事の関係で早い時期から使っていた。新しいものに貪欲だったのだ。やがて私は転職して結婚して子どもができて、気がつくと33歳になっていた。自分の時間を必死に確保しようとする中で、新しいものとの関わりを削ぎ落としている気がする瞬間がある。少なくとも、あのころの片鱗は、今の自分にはない。

私にとって2010年代は、人生が全て変わった10年だった。大阪から東京へ住む場所が変わり、仕事も変わり、自分の家族もできた。人生は大きく変わったけど、たまに変わってはいけなかったところまで変わったような気がして切なくなる。

いつの時代も10年の歳月は暮らしを大きく変えるが、今は変わらないでいることを選べる時代だ。ガラケーのまま十分暮らしていけるし、SNSなんて使わなくても親は幸せそうだし、10年前はなかった生活家電も、なくてもそこまで不便じゃないはずだ。新しいことを選ばない暮らしは、穏やかでそれも幸せだと思う。だけど、こればっかりは好みの問題だと思うけど、私はまだ新しいものに触れ学び続ける人生でいたい。

永井荷風の文学講座で、先生の話にうなずき時に質問をしている方がいた。70歳はまだまだ先だけど、私もそうなりたいと思った。とりあえず今年は、貪欲だったころの自分に戻ることから始めたいと思う。70歳になったとき、新しいことにチャレンジできる人でいたいのだ。

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撮影協力:齋藤 大輔
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