プレスラボ

2020
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梅田 カズヒコ

梅田 カズヒコ

2011年、震災のあった年、僕は仕事で中国の上海にいた。中国大陸向けのECサイト、そのオウンドメディアの記事作成ってことで、当時からしてもうまくやれば相当なビッグマネーが転がってきてもおかしくなかったが、まあ現実的には外国人の気持ちを理解してコンテンツを作ることはかなり難しく、僕たちのプロジェクトは難航していた。

取引先での打ち合わせを終え、ホテルに帰ってきた僕らは、何気なくテレビを点けた。そこには、日本では流れていないような、震災の爪痕と、原発の炉心融解に関する映像があった。男子部屋の男3人は、それを無言で眺めていた。立入禁止区域でご主人を失い迷う犬。日本国内では見れないような生々しさ。日本の放送局は、なんらかの映像の選別を行なっていたのかもしれない。たまたまかもしれない。ただ、国内に伝えられているものと、海外で発信されている情報には格差があったことは事実だ。僕の知り合いの旅行作家も震災の時に南米にいて、同様の状況であったと証言している。

2011年の不思議な凪を終えて、2012年以降の僕たちの元には、何か大きな波が来ていた。周囲の知り合いが突然有名人になった。上海でうまくいかなかったはずのオウンドメディアがなぜか突然日本でブームになった。会社の中からも有名なインフルエンサーが生まれた。多くの人がやってきて、多くの人が去った。ぼくはそれを、ちょうどあの日のホテルのテレビのように眺めていた。

僕は幸せ者だ。ちょっとした時代の証言者になれた。10年間、自分に何ができて、何ができないかよく思い知った。あらゆる強迫観念が霧散して自由になれた。これから来る新しい旅の予感、楽しみで仕方ない。

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撮影協力:齋藤 大輔
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